令和5年分の特定口座の上場株式の配当等の申告方式変更の影響(特定口座を複数保有すると損するおそれあり)

令和5年分の確定申告から特定口座の上場株式の申告方式が変更になりました。これにより特定口座を複数保有すると損が生じる恐れが出てくることになりました。申告方式の何が変わり、特定口座を複数保有する方にどのような影響が生じるのかを考えてみたいと思います。

令和4年分までの申告方式

上場株式の保有方法としては、一般口座と特定口座がありますが、特定口座の場合、所得税と住民税を証券会社に源泉徴収してもらうことで確定申告をする手間が省けるので、多くの方は、特定口座で上場株式を保有しているかと思います(「源泉徴収なし」の特定口座もありますが、ここでは「源泉徴収あり」の特定口座を前提とします)。

このように、特定口座で上場株式を保有していれば、配当金や譲渡益(以下まとめて「配当等」「配当等の所得」ということがあります)に対する課税(所得税、住民税)は源泉徴収されるので確定申告をする必要はありませんが、人によっては、確定申告をした方が良い場合があります。

例えば、ある年の上場株式の取引の結果、A証券会社では配当金+100万円、B証券会社では譲渡損失-100万円といった損益が生じた場合、トータルではプラスマイナスゼロなのに、A証券会社では100万円に源泉徴収税がかかるので、源泉徴収税率20%(所得税15%+住民税5%。復興特別所得税は省略します)を掛けた20万円(=1,000,000円×20%)を控除した80万円が手取りとして支払われます。プラスマイナスゼロなのに、税金が20万円も取られるのは損なので、どうすればよいかというと、確定申告をし、A証券会社のプラス分とB証券会社のマイナス分を損益通算することで、源泉徴収された税金の還付を受けることができるのです。

確定申告をする場合、確定申告のための申告書(確定申告書)を国税庁に提出することになるのですが、申告書の第二票に、住民税に関する事項として「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」という欄があります。住民税について申告不要を選ぶと、この欄に〇がつき、住民税の申告がなされません。この場合、確定申告をした方の住む市区町村は確定申告書に配当等の所得の金額が記載されていてもないものとして取り扱われ、住民税の金額にも反映されません。

他方で、申告不要を選ばないと、この欄に〇がつかず、住民税の申告がなされることになります。この場合、市区町村は確定申告書に記載された配当等の所得の金額を、配当等の所得として取り扱います。これにより住民税の金額にも反映されます。なお、住民税の申告をする場合、総合課税と分離課税のいずれかで申告することができます。

令和4年分の申告までは、所得税と住民税それぞれ異なる申告方式を取ることができました。例えば、所得税は確定申告をして住民税は申告不要を選ぶといったような具合です(反対に所得税の確定申告はしないが、住民税の申告はするといったことも理屈上は可能でした)。

また、住民税は納税通知が届いた後に上場株式の配当等の申告をすることはできませんでしたので、納税通知が届いた後に上場株式の配当等の確定申告をしていた場合は自動的に所得税は申告して住民税は申告しない(申告不要を選択)というような方式で課税されることとなっていました。

ちなみに、源泉徴収された住民税(都道府県がまとめて源泉徴収している)は、申告不要を選択するか否かに関わらず、都道府県経由で市区町村に交付金として分配されます。

令和5年分からの申告方式

上記の通り、令和4年分までは、所得税は申告(確定申告)をするが住民税は申告をしない(申告不要を選択)ということができましたが、令和5年分の申告からは所得税と住民税の申告方式は合わせなければならなくなったため、所得税で確定申告をしたら住民税でも申告をしたこととなります。

また、上場株式の配当等の所得は、総合課税と分離課税を選択できるところ、令和4年分までは所得税は分離課税、住民税は総合課税というように別々の申告をすることができましたが、令和5年分からは所得税と住民税の申告を合わせなければならなくなりました。

申告方式変更の影響

申告方式変更が具体的にどう影響するか考えてみましょう。

まず、A証券会社の特定口座では配当金+100万円、B証券口座の特定口座では譲渡益+100万円だとします。この場合、別途、確定申告(配当等の所得の金額の申告)をする必要がなければ、確定申告をせずに源泉徴収されて課税関係は終わることになります。

次に、A証券会社の特定口座では配当金+100万円、B証券会社の特定口座では譲渡損失-100万円だとしましょう。この場合、損益通算のため確定申告(分離課税を選択)をすると、住民税との関係でも分離課税で申告したことになります。もっとも、所得税の計算上も住民税の計算上も所得はゼロとなるので、税金はゼロとなり特段不利はありません。

それでは、A証券会社の特定口座では配当金+200万円、B証券会社の特定口座では譲渡損失-100万円だとしましょう。この場合、住民税の税額は5万円((2,000,000円-1,000,000円)×5%)となります。住民税の申告をしてもしなくても、住民税の税額は5万円で変わらないので、一見、申告をすることに不利はないように見えます。

しかし、住民税以外の関係で注意が必要となってきます。その代表例が、国民健康保険料と介護保険料です。

というのも、国民健康保険料と介護保険料は住民税の金額によって影響を受けるため、住民税の申告をすることで住民税の金額が増える(上記の例でいえば+5万円住民税が増える)と国民健康保険料と介護保険料の金額も増える可能性があるのです。

令和4年分までは、所得税との関係では確定申告をし、住民税との関係では申告不要を選択することで、配当等の所得の金額を住民税に含めることを回避することができました(上記の通り、申告不要を選択すると市区町村は配当等の所得の金額をないものとして取り扱います)。しかし、令和5年分からはこのような申告方式を選択することができなくなりました。

証券口座の一本化も視野に

証券会社によって提供しているサービスの内容が異なるため、複数の証券会社で口座を保有し、上場株式の取引を行っている方もおられると思います。

しかし、複数の証券会社で口座を持っていると、損益通算の必要から確定申告をする年も出てくると思いますが、令和5年分からは確定申告をすることにより、国民健康保険料や介護保険料の金額に波及する場合も出てくる恐れがあります。

これを避けるためにも、証券口座を一本化し、取引を一つの証券会社内だけで行うことを検討しても良いかもしれません。

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