賃貸マンションの更新料を支払う義務はあるのか?

賃貸マンションに住んでいる人は、賃貸借契約の更新のときに、更新料を支払っていると思います。

当然のように更新料を払っているかもしれませんが、よくよく考えてみると、どうして毎月家賃を払っているのに、それとは別に、更新料を払わなければならないのでしょうか?

私も賃貸マンションに住んでいるので、更新時に更新料を払いましたが、内心では、「私が更新することで、貸主は、新たな借主を探す手間と費用が省けるし、空室期間も発生しないんだから、それだけで貸主にとって利益なのに、そのうえ更新料まで払わなきゃいけないの?」なんて思ったりもするわけです。

私の場合、心の中で思っているだけですが、世の中は広いもので、更新料の支払義務の有無をめぐって裁判にまでなったケースもあるようです。

この記事では、そのような裁判例を参考に、建物(マンション、アパート等)を借りた場合の更新料について、どういう場合に支払義務があるのか(あるいは、支払義務がないのか)を解説していきたいと思います。

1.モデルケース

Aさん(22歳男性)は、大学卒業後、銀行員として勤めるために、実家を出てひとり暮らしを始めました。

現在、平成28年4月1日から平成30年3月31日までの2年間の契約期間で、B社からマンションの一室を借りて、ひとり暮らしをしています。家賃は月6万円です。

契約の満期を1か月後に控えた平成30年2月に、Aさんのもとに、B社から契約を更新するのかどうか問い合せが来ました。

Aさんとしては更新したいと考えていますが、B社から契約を更新するのであれば(更新後の契約期間は2年間)、更新料として賃料1か月分を支払うよう通知が来ています。

Aさんは、更新料を支払わなければならないのでしょうか?

2.更新料支払の根拠

建物を借りる契約、つまり、建物賃貸借契約とは、貸主が建物を借主に使用させ、借主が貸主に賃料を支払うことを本質とする契約です(民法601条)。

賃料の支払は賃貸借契約の本質的な義務ですので、借主は、貸主に賃料を支払わなければなりません。

一方で、更新料は、賃料と違い賃貸借契約の本質的な義務ではありません。

また、判例上、更新料を支払うという慣習はないものとされています(注1)

そのため、原則として、借主には更新料を支払う義務はありません。

但し、更新時に更新料を支払う旨の合意をしている場合、例えば、賃貸借契約書に更新料特約がある場合には、更新料を支払わなければなりません。

【更新料特約の例】

第〇条

本契約が更新されたときは、借主は、貸主に対し、更新料として賃料1か月分の金員を支払う。

このように、実は、更新料特約がない限り、更新料を支払う義務はないのです。

3.更新料を支払わないと契約はどうなるか?

3.1 更新料特約がない場合    

先ほど述べたように、更新料特約がない場合は、更新料を支払う義務はありません。

そのため、契約期間の満期が近づき、貸主から契約を更新するのであれば更新料を支払うよう要求されても、拒否できます。

では、更新料の支払を拒絶したことを理由に、貸主が契約の更新に応じなかったらどうなるでしょうか。

3.1.1 自動更新条項がある場合

まず、契約書に自動更新条項があれば、自動的に更新されます。

【自動更新条項の例】

第〇条

本契約は、契約期間満了の日の1か月前までに、借主が貸主に対して更新をしない旨の通知をしないときは、期間満了の日の翌日から更に2年間、同一の条件で更新されるものとする。

3.1.2 自動更新条項がない場合

また、契約書に自動更新条項がない場合でも、貸主から契約満期の1年前から6か月前までの間(Aさんの例でいえば、平成29年3月31日から平成29年9月30日までの間)に更新しない旨の通知等がなければ、借地借家法の規定に基づき更新されます(借地借家法26条1項)。

【借地借家法26条1項】

建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。

この借地借家法に基づく更新を法定更新といい、更新後は、期間の定めのない契約として存続します。

期間の定めのある契約から期間の定めのない契約に変わることで、何が変わるかというと、基本的な契約条件(家賃の金額等)は、それまで通りです。

ただ、期間の定めのない契約に変わると、貸主は、いつでも解約の申入れをすることができるようになり(民法617条1項)、解約申入後6か月を経過することで、その契約は終了します(借地借家法27条1項)。

もっとも、この解約申入れには、正当事由という厳しい要件が必要とされていますので(借地借家法28条)、基本的には、契約はそのまま続いていくことになると思います。

【借地借家法28条】

建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

Aさんの例で言えば、極端な話、AさんがB社からの問い合わせを無視し、更新契約を結ばず、更新料も払わないで放っておいたとしても、賃貸借契約は法定更新され、Aさんは平成30年3月31日の満期後も、引き続きその部屋に住み続けることが可能なわけです。

もっとも、Aさんがこのような態度をとると、B社も反発して、強硬姿勢を取ることは必至です。B社との間でトラブルに発展する可能性は大きいでしょう。

このようなトラブルを避けるためにも、更新料特約がない場合でも、更新料を支払って、更新契約を結ぶのが無難だと思います。

ちなみに、私の場合は、賃貸借契約書に更新料特約が記載されていなかったので、一瞬、更新料の支払を断ろうかと思ったりもしましたが、更新料の支払を断ると、貸主の業者から、電話やら文書やらが飛んできて面倒臭いことになるだろうなと思い、おとなしく更新料を支払いました。

3.2 更新料特約がある場合    

更新料特約がある場合は、更新時に、更新料を支払わなければなりません。

この場合に、更新料を支払わないと、最悪、債務不履行を理由に契約を解除されてしまうおそれもあります(注2)

ただし、更新料があまりに高い場合には、次に見るように、消費者契約法10条により、更新料特約自体が無効になる可能性もあります。

4.更新料特約が消費者契約法により無効になる場合

4.1 消費者契約法10条    

消費者契約法とは、消費者と事業者間には情報や交渉力の格差があり、消費者は弱い立場にあることから、そんな消費者を保護するために作られた法律です(消費者契約法1条)。

消費者契約法は、消費者と事業者が締結する契約に適用されるのですが(消費者契約法2条3項)、事業者とは、法人や個人事業主のことを言い、消費者とは、事業者ではない個人のことを言います(同法2条1、2項)。

Aさんの例で言えば、個人であるAさんが消費者で、法人であるB社が事業者にあたりますので、消費者契約法が適用されます。

そして、この消費者契約法の中には、①民法等の法令に比べて消費者の義務を加重するもので、②消費者の利益を一方的に害する契約条項を無効にするという規定があります(消費者契約法10条)。

【消費者契約法10条】

消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

*上記は平成28年5月改正後のものです。改正前の条文に例示が追加されましたが、本質部分に変更はありません。

4.2 最高裁で更新料特約の有効性が争われた    

更新料特約は、賃貸借契約の本質ではない義務を借主に加重するものですし、更新料を払わされることで消費者の利益は害されますので、消費者契約法10条に該当し、無効であるとは言えないでしょうか。

実際、更新料が賃料2か月分(賃料1か月5万8000円、更新後の契約期間は2年間)であっても、その更新料特約は、消費者契約法10条に該当し無効であると判断した裁判例もありました(注3)

反対に、更新料特約は、有効であるとした裁判例もあったことから(注4)、更新料特約の有効性は、遂に最高裁で争われることになりました。

そして、最高裁(注5)は、更新料の金額が一義的かつ具体的に記載された更新料特約は、原則として、消費者契約法10条に該当せず、有効であるとの判断を示しました。

ただし、この最高裁の判決も、更新料の金額が、賃料の金額や賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がある場合には、消費者契約法10条により無効になるとしています。

つまり、最高裁は、更新料特約は、「原則有効」だが、あまりに更新料が高すぎる場合は消費者契約法10条により「無効」という判断を示したわけです。

4.3 更新料はどれくらいまでなら認められるのか?    

では、具体的に、更新料は、どれくらいまでなら認められるのでしょうか。

例えば、先ほどの最高裁の事案では、賃料の額は月額3万8000円で、更新料特約の内容は、次のようなものでした。

【最高裁の事案の更新料特約】

① 借主は、期間満了の60日前までに申し出ることにより、本賃貸借契約の更新をすることができる。

② 借主は、本賃貸借契約を更新するときは、これが法定更新であるか、合意更新であるかにかかわりなく、1年経過するごとに、貸主に対し、更新料として賃料の2か月分を支払わなければならない。

③ 貸主は、借主の入居期間にかかわりなく、更新料の返還、清算等には応じない。

そして、最高裁は、結論として、上記の更新料特約は、消費者契約法10条に該当せず、有効という判断を示しました。

その理由として、①更新料は、賃料の補充や前払、契約継続のための対価等の趣旨で支払われるものであり、経済的合理性がないとはいえないことや、②更新料特約の内容は、所定の更新料を支払えば、所定の期間、契約が更新されるという簡明なものであり、貸主と借主との間で、情報や交渉力に看過できないほどの格差があるとはいえないことなどを挙げています(注6)

この最高裁の判決が出た後に、更新料特約を無効と判断した裁判例はないようですので(注7)、どれくらいの更新料だと「無効」になるのかはまだ分かりません。

しかし、少なくとも、賃料2か月分程度の更新料であれば、その更新料特約は「有効」と判断されるものと思われます。

5.まとめ

5.1 更新料特約がない場合    

更新料を支払う義務なし。

但し、貸主とのトラブルを避けるため、支払った方が無難。

5.2 更新料特約がある場合    

更新料を支払う義務あり。

但し、更新料があまりに高ければ、消費者契約法10条により更新料特約が無効となる場合がある。

更新料特約が無効とされる具体的基準は不明だが、賃料2か月分程度の更新料であれば無効とはされない。

 

<参考にしたサイト、文献等>

注1 借地については最判昭和51年10月1日裁判集民事119号9頁、借家については東京高判昭和62年5月11日金判779号33頁

注2 更新料支払義務の不履行を理由とする土地賃貸借契約の契約解除を認めた判例として最判59年4月20日民集38巻6号610頁

注3 京都地判平成21年7月23日判タ1316号192頁

注4 大阪高判平成21年10月29日判時2064号65頁など

注5 最判平成23年7月15日民集65巻5号2269頁

注6 森冨義明「判解」最判解民事篇平成23年度(下)557頁参照

注7 注5の最高裁判決を紹介する国民生活センターのホームページ(2012年7月公表)にも、この判決以前に更新料特約を無効とした裁判例は紹介されているが、この判決以後に無効とした裁判例は紹介されていない。

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