エクセルで青色申告をしよう(5) 簡易帳簿を作る

前回は、複式簿記について勉強しました。

今回からは、実際に帳簿を作っていきましょう。

複式簿記の理解がいまいちという方も、実践を通じて理解を深めていけば大丈夫です。

目次

1.モデルケース

ここでは、フリーのライターをしている野比さんの1か月間の取引を最初に並べて、それらがどう帳簿に記録されていくのかを説明していきたいと思います。

1.1 野比さんについての情報    

【プロフィール】

年齢:26歳(独身)

職業:平成30年1月1日からフリーのライターとして仕事を始める

職場:家や喫茶店で執筆する。場所は、その日の気分で決める。

年金:国民年金

健康保険:国民健康保険

取引先:ドラ株式会社。定期的に原稿執筆の依頼をくれる。

【銀行口座】(平成29年12月31日現在)

プライベート用の預金口座:Y銀行普通預金(残高50万円)

事業用の預金口座:Y銀行普通預金(残高0円)

【クレジットカード】

プライベート用のクレジットカードと事業用のクレジットカードを所有。

【Suica】

プライベート用のSuica(残高5,000円)だけを所有(平成29年12月31日現在)。

1.2 野比さんの平成30年1月の取引記録    

① 1/1

フリーとして仕事をスタート。手持ちの財布の現金は3万円だった。1か月の食費はこの範囲でやりくりするつもりである。

② 1/4

事業用に使うため、銀行でプライベート用の預金口座から現金5万円を引き出して財布に入れた。

③ 1/5

近所の本屋で執筆に必要な参考書籍を3,000円(税込み)で購入(事業用のクレジットカード払い)

④ 1/6

事業用に使うための中古のパソコンを2万円(税込み)で購入した(現金払い)。

⑤ 1/7

ドラ株式会社から執筆の依頼が来る。原稿料は10万円(税抜き)とのこと。

⑥ 1/10

打ち合わせのため電車でドラ株式会社に行く。交通費は往復3,000円(Suicaで支払う)。

⑦ 1/12

ドラ株式会社に原稿をメールに添付して納品する。同日、ドラ株式会社から納品確認のメールが来た。

⑧ 1/14

ドラ株式会社主催のパーティに出席。会費は5,000円だった(現金払い)。

⑨ 1/18

ドラ株式会社から1/12に納品した分の原稿料が事業用の預金口座に振り込まれる。

原稿料10万円に消費税8,000円を上乗せし、所得税の源泉徴収税額10,210円を控除した97,790円が振り込まれた。

⑩ 1/27

1/5にクレジットカードで買った参考書籍の費用3,000円が、事業用の銀行口座から引き落とされる。

⑪ 1/30

国民年金保険料(平成30年1月分)16,490円を銀行窓口で支払う(現金払い)。

⑫ 1/31

銀行ATMで、事業用の預金口座から、1/18に振り込まれたお金のうち5,000円を事業用に使うため引き出して財布に入れた。

以上の1ヶ月の野比さんの動きをもとに、まずは、現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、経費帳を作っていきましょう。

なお、帳簿のフォーマットは種々ありますが、ここでは、私が使っているものを紹介しています。

2.現金出納帳を作る

(現金出納帳のフォーマットの例)

日付 摘要 相手科目 入金額 出金額 残高金額

2.1 現金出納帳の作り方    

基本的には、現金が増えたら「入金額」欄にその金額を記録し、現金が減ったら「出金額」欄にその金額を記録します。

ここまでは簡単ですが、慣れないのが「相手科目」欄です。

ここで、複式簿記の知識をおさらいしましょう。

複式簿記では、一つの取引を「資産」「負債」「資本」「費用」「収益」のうちの二つの組み合わせ(セット)で把握します(「資産」が減って別の「資産」が増えるという組み合わせもあるので注意してください)。

現金出納帳の場合、セットの一つは、現金という資産の増減です。

現金出納帳の「相手科目」欄には、この「現金という資産の増減」とセットになるものの勘定科目を記入するわけですが、「費用」か「負債」であることが多いです。

勘定科目で言えば、「費用」については、消耗品費、接待交際費、旅費交通費、新聞図書費などで、「負債」については、借入金、事業主借などです。

抽象的に言っても分かりづらいので、野比さんの例で見ていきましょう。

2.2 野比さんの取引を記帳する    

まず、野比さんの取引の中から、現金が絡むものをピックアップしてみましょう。

① 1/1

フリーとして仕事をスタート。手持ちの財布の現金は3万円だった。1か月の食費はこの範囲でやりくりするつもりである。

② 1/4

事業用に使うため銀行でプライベート用の預金口座から現金5万円を引き出して財布に入れた。

④ 1/6

事業用に使うための中古のパソコンを2万円(税込み)で購入した(現金払い)。

⑧ 1/14

ドラ株式会社主催のパーティに出席。会費は5,000円だった(現金払い)。

⑪ 1/30

国民年金保険料(平成30年1月分)16,490円を銀行窓口で支払う(現金払い)。

⑫ 1/31

銀行ATMで、事業用の預金口座から、1/18に振り込まれたお金のうち5,000円を事業用に使うため引き出して財布に入れた。

以上の6つが挙げられると思いますが、その全てを現金出納帳に記入するわけではありません。

現金出納帳に記入するのは、あくまで事業用の現金の増減であり、プライベート用の現金(生活資金)の増減は記入しません。

では、①、②、④、⑧、⑪、⑫のうち、現金出納帳に記録すべき取引はどれでしょうか?

2.2.1 ①の取引は記帳するか?

①は、野比さんの生活資金(食費)に使う現金に関する記述であり、事業上の現金に増減がないので、現金出納帳には記入しません。

2.2.2 ②の取引は記帳するか?

②の取引は、野比さんがプライベートの口座から事業用に現金を引き出したというものです。

この現金が、生活資金に使うものであれば、事業上の財産に増減がないので、記帳は不要です。

しかし、野比さんは、事業用に使うために現金を引き出したのであり、その結果、事業用の現金が増えているので、現金出納帳に記録します(①の生活資金3万円と②の事業資金5万円が一緒の財布に入っていても、その性質は別物なのです)。

では、「相手科目」欄には何と記録するのでしょうか?

現金という「資産の増加」とセットになっているのは何でしょうか?

答えは、「事業主借」です。

事業主野比さんが、プライベート野比さんからお金を借りたと考えるわけです。

つまり、②の取引では、「現金という資産の増加」と「事業主借(プライベート野比さんからの借金)という負債の増加」がセットになるのです。

2.2.3 ④の取引は記帳するか?

④の取引は、事業用の中古パソコンを購入したときに支払ったものであり、事業に関係するので、記帳します。

ここでは、現金が減っていますが、この現金が生活資金から出したものか、それとも事業資金から出したものかによって記帳の必要性が変わってきます。

というのも、生活資金から出したのなら、事業用の現金に増減がないので、現金出納帳に記録する必要性はありませんが(経費帳には記録する必要があります)、事業資金から出した場合は、事業用の現金が減っているので、現金出納帳に記録する必要があるのです。

現金を事業用と生活用に分別管理していれば迷うことはありませんが、分別管理していないときは、どうしましょうか。お金に色はついていませんが、事業用の支出は事業資金から出し、生活用の支出は生活資金から出したとして処理するのが自然なように思います。

この記事でも、特に記述がないときは、事業用の支出は事業資金から出し、生活用の支出は生活資金から出したものとして処理します。

④は事業用の出費ですので、事業用の現金を使って買ったものと考えます。

そうすると、④の取引は、現金出納帳に記録する必要があり、ここでは「現金という資産の減少」と「消耗品である中古パソコンの購入費用(消耗品費)という費用の増加」がセットになっているので、相手科目は、「消耗品費」となります。

2.2.4 ⑧の取引は記帳するか?

⑧の取引は、取引先であるドラ株式会社のパーティに出席したときに現金を支払ったというものです。

事業用の支出は事業資金から払ったと考えると、事業用の現金が減っていることから、現金出納帳に記帳します。

ここでは、「現金という資産の減少」と「取引先のパーティ出席費用(接待交際費)という費用の増加」がセットになっているので、相手科目は、「接待交際費」となります。

2.2.5 ⑪の取引は記帳するか?

⑪の取引は、国民年金保険料を納付したというものですが、これは、事業に関係のない(事業をしていなくても納付義務がある)支出であり、生活資金から払った(事業用の現金に増減がない)と考えますので、記帳しません。

ちなみに、国民年金保険料は経費にはなりませんが、所得控除の対象になるので、課税の対象となる所得(課税所得)の金額を減らす効果があります。

2.2.6 ⑫の取引は記帳するか?

⑫の取引は、事業用の預金口座から現金を引き出したというものです。

繰り返しになりますが、事業用の預金口座から引き出した現金を現金出納帳に記録するかどうかは、引き出した目的によります。

というのも、生活資金に使うために引き出したのであれば、事業用の現金の増減はありませんので、現金出納帳には記録しません(事業用の預金は減っているので、預金出納帳には記録します)。

しかし、⑫の現金は、事業に使う目的で引き出したものですので、事業用の現金が増えていることから、現金出納帳に記録します。

ここでは、「現金という資産の増加」と「普通預金という資産の減少」がセットになっているので、相手科目は、「普通預金」となります。

2.3 現金出納帳への記帳の結果    

以上、野比さんの平成30年1月の取引を現金出納帳に記帳すると、次のようになります。

(野比さんの現金出納帳)

日付 摘要 相手科目 入金額 出金額 残高金額
1/4 個人口座から事業資金へ組み入れ 事業主借 50,000 50,000
1/6 パソコン購入 消耗品費 20,000 30,000
1/14 ドラ株式会社パーティ出席 接待交際費 5,000 25,000
1/31 事業用口座から現金引き出し 普通預金  5,000 30,000

以上で、野比さんの現金出納帳を作ることができました。

次に、預金出納帳を作ります。

3.預金出納帳を作る

(預金出納帳のフォーマットの例)

日付 摘要 相手科目 入金額 出金額 残高金額

3.1 預金出納帳の作り方    

預金出納帳の作り方は、簡単です。

預金通帳を見て、そのとおりに記帳すればいいわけです。

(野比さんの事業用の預金通帳)

日付 摘要 お支払金額 お預り金額 差引残高
ご新規 0 0
1/18 振込 ドラ株式会社 97,790 97,790
1/27 振替 3,000 クレジットカード 94,790
1/31 カード 5,000 89,790

但し、預金通帳には、「相手科目」が書かれていませんので、これだけは、自分で考えて記帳する必要があります。

それでは、野比さんの例で、現金出納帳を作ってみましょう。

野比さんの1か月の取引の中で、預金出納帳への記帳の対象となる取引は、預金通帳に記帳された取引、つまり、次の3つです。

⑨ 1/18 

ドラ株式会社から1/12に納品した分の原稿料が事業用の預金口座に振り込まれる。

原稿料10万円に消費税8,000円を上乗せし、所得税の源泉徴収税額10,210円を控除した97,790円が振り込まれた。

⑩ 1/27 

1/5にクレジットカードで買った参考書籍の費用3,000円が、事業用の銀行口座から引き落とされる。

⑫ 1/31 

銀行ATMで、事業用の預金口座から、1/18に振り込まれたお金のうち5,000円を事業用に使うため引き出して財布に入れた。

3.2 野比さんの取引を記帳する    

3.2.1 預金通帳の内容を記帳する

まずは、預金通帳を元に記帳します。預金通帳の「お支払金額」「お預り金額」欄と預金出納帳の「入金額」「出金額」欄は逆になりますので、間違えないようにしましょう。

日付 摘要 相手科目 入金額 出金額 残高金額
1/18 ドラ株式会社から原稿料入金 97,790 97,790
1/27 クレジットカード利用代金引落 3,000 94,790
1/31 事業用口座から現金引き出し 5,000 89,790

これで、「相手科目」以外は、記録できました。

続いて、「相手科目」を記録しましょう。

3.2.2 ⑨の取引を記帳する

⑨の取引は、ドラ株式会社から原稿料が振り込まれたというものです。

ここでは、「普通預金(の残高)という資産の増加」と「収益(勘定科目で言えば売上高)の増加」がセットになっている・・・

と、思いがちですが、実は違います。

エクセルで青色申告をしよう(2)でも説明しましたが、売上を計上する時期には、実際に入金があったときに計上する「現金主義」と、仕事を完成したときに計上する「発生主義」があり、青色申告をする場合は、「発生主義」で計上しなければならりません。

そうすると、野比さんの場合、1/12に原稿を納品し(⑤)、仕事を完成させているので、既に、このときに売上が発生しているのです。

ただ、原稿を納品した段階では入金がまだなので、売掛金として資産に計上することになります。

そして、原稿料が入金されたことで「普通預金(の残高)という資産の増加」と「売掛金という資産の減少」がセットになるわけです。

したがって、ここでの相手科目は、「売掛金」となります。

3.2.3 ⑩の取引を記帳する

⑩の取引は、クレジットカードで買った参考書籍の代金が引き落とされたというものです。

クレジットカードを利用してモノを購入した場合、カード会社が立替払いをしていて、後日、1か月分の取引をまとめて預金口座から引き落とされるという流れをたどります。

カード会社に後日代金を支払わなければなりませんので、モノを購入した時点では、代金未払の状態にあり、カード会社に負債を負っているといえます。

このように、クレジットカードでモノを購入した場合は、購入時点で「未払金」という負債を負ったものとして経理処理し、後日カード利用代金が引き落とされた段階で、この負債を消滅させる処理を行うのです。

以上のことから、⑩の取引は、「預金という資産の減少」と「未払金という負債の減少」がセットになっているわけです。

3.2.4 ⑫の取引を記帳する

⑫の取引は、事業用の預金口座から事業用に使うために現金を引き出したというものです。

ここでは、「預金という資産の減少」と「現金という資産の増加」がセットになっていますので、相手科目は「現金」となります。

ちなみに、引き出した目的が、プライベート用に使うためであった場合は、「預金という資産の減少」と「事業主貸という資産の増加」がセットになりますので、相手科目は「事業主貸」となります。

3.3 預金出納帳への記帳の結果    

野比さんの平成30年1月の取引を預金出納帳に記帳すると、次のようになります。

(野比さんの預金出納帳)

日付 摘要 相手科目 入金額 出金額 残高金額
1/18 ドラ株式会社から原稿料入金  売掛金 97,790   97,790
1/27 クレジットカード利用代金引落  未払金   3,000 94,790
1/31 事業用口座から現金引き出し  現金   5,000 89,790

以上で、野比さんの預金出納帳ができました。

続いて、売掛帳を作ります。

4.売掛帳を作る

4.1 売上は発生主義で計上する    

売上の計上の時期には、支払がなされた時点で計上する現金主義と、仕事を完成した時点で計上する発生主義があります。

青色申告をする場合は、原則として発生主義で計上しなければなりませんので、仕事の完成時期と対価(報酬)の入金時期がずれる場合は、売掛金で計上します。

売掛金を管理するために、売掛帳を作った方が便利ですので、作り方をご紹介します。

(売掛帳のフォーマットの例)

日付 摘要 相手科目 売掛金額 入金額 残高金額

4.2 売掛帳の書き方    

4.2.1 基本形

売上が発生したとき(仕事が完成したとき)に、報酬額を「売掛金額」欄に記録します。

後日、報酬が入金されたときには、「入金額」欄にその金額を記録します。

ここまでは簡単です。

では、「相手科目」欄には、何と書けば良いのでしょうか?

まず、売掛金という資産が発生するのは、売上(収益)が発生したときですので、複式簿記の視点からは、「売上(収益)の発生」と「売掛金という資産の発生」がセットになります。

そこで、売掛金が発生した場合の相手科目は、収益の勘定科目である「売上高」となります。

次に、報酬が支払われたときに、売掛金は消滅するわけですが、報酬の支払は「現金払い」または「振込払い」であることが多いでしょうから、報酬の支払に伴い「現金という資産が増加」しているか、「銀行預金という資産が増加」していると思います。

ここでは、「売掛金という資産の減少」と「現金または銀行預金という資産の増加」がセットになっていますので、報酬の入金があった場合の相手科目は、現金払いであれば「現金」、振込払いであれば「普通預金」となります。

4.2.2 源泉徴収された場合

取引先企業から報酬を支払われる際、所得税を源泉徴収されていることがあります。

このときは、どのように書けば良いのでしょうか?

例えば、10万円の売上に対しては、10,210円(10.21%)の所得税が源泉徴収されますので、実際に入金されるのは、源泉徴収後の金額である89,790円です(消費税はひとまずおいて考えます)。

これをそのまま売掛帳に書くと次のようになってしまいます。

(売掛帳の例)

日付 摘要 相手科目 売掛金額 入金額 残高金額
4/1 ○○の件報酬 売上高 100,000 100,000
4/1  ○○の件報酬入金 普通預金 89,790 10,210

これだと、10万円から89,790円を引いた金額である10,210円が残高に残ってしまいますが、別途、10,210円が支払われるわけではないので、これを売掛帳に残しておくのは誤りです。

では、この10,210円は一体何なのか?

この10,210円は、所得税が源泉徴収されたものですが、所得税は、収入から費用を差し引いた利益に課税されるものなので、所得税自体は、費用(経費)ではなく、プライベートの支出となります。

そうすると、事業資産(売掛金)で、プライベートの支出(所得税の支払)をしたことになるので、ここでは、事業主貸として処理します。

つまり、「売掛金という資産の減少」と「事業主貸という資産の増加」がセットになるわけです。

これを売掛帳に反映させると次のようになります。

(売掛帳の例)

日付 摘要 相手科目 売掛金額 入金額 残高金額
4/1   売上高 100,000   100,000
4/1   普通預金   89,790 10,210
4/1 事業主貸 10,210 0

以上により、売掛金の残高をゼロにすることができました。

4.2.3 消費税の扱い

フリーランスの方が、事業の対価である報酬を請求する際には、消費税を加算して請求することができます(注1)。

この消費税ですが、本来は、国に納めるべき税金なわけですが、個人事業者の場合、原則として、前々年の年間売上高が1,000万円以下の場合は、消費税の納付義務が免除されています(免税事業者といいます)(注2)。

そして、免税事業者の場合、消費税は、売上高や費用に含めて計算することになっています(税込経理方式といいます)(注3)。

他方、消費税の納付義務がある事業者の場合は、消費税を売上高や費用と区別して計算する方法(税抜経理方式)と税込経理方式を選択することができます。

この記事では、免税事業者を対象としていますので、税込経理方式で解説していきます。

4.3 野比さんの取引を記帳する    

それでは、野比さんの取引を売掛帳に記帳しましょう。

まず、売掛帳に記帳する取引を取り上げます。関係する取引は次の2つです。

⑦ 1/12

ドラ株式会社に原稿をメールに添付して納品する。同日、ドラ株式会社から納品確認のメールが来た。

⑨ 1/18

ドラ株式会社から1/12に納品した分の原稿料が事業用の預金口座に振り込まれる。

原稿料10万円に消費税8,000円を上乗せし、所得税の源泉徴収税額10,210円を控除した97,790円が振り込まれた。

4.3.1 ⑦の取引を記帳する

⑦の取引は、ドラ株式会社に原稿を納付するという野比さんの行動を示しただけで、財産に増減はないようにも見えます。

しかし、原稿を納品することで野比さんの仕事は完了したので、この時点で、売上計上をします(発生主義)。

そこで、売掛帳の「売掛金額」欄に、消費税込の報酬金額である108,000円を記録します(税込経理方式)。

また、複式簿記の視点で見ると、ここでは、「売掛金という資産の発生」と「収益(売上高)の発生」がセットになっているので、売掛帳の「相手科目」欄には、「売上高」と記録します。

4.3.2 ⑨の取引を記帳する

⑨の取引は、ドラ株式会社から原稿料が納付されたというものです。

売掛金108,000円(⑦の記帳の結果)に対して、振り込まれた金額は、97,790円ですので、まず、この部分の売掛金を減らす記帳をします。

「入金額」欄に97,790円と記録した後、その横の「相手科目」欄には、「普通預金」と記入します。

これは、「売掛金という資産の減少」と「普通預金という資産の増加」がセットになっているからです。

次に、源泉徴収された10,210円の記帳を行います。

同じく、「入金額」欄に10,210円と記録した後、その横の「相手科目」欄には、「事業主貸」と記録します。

これは、既に説明したとおり、プライベート野比さんが払うべき所得税を、事業主野比さんが代わりに支払っている関係にあるので、「売掛金という資産の減少」と「事業主貸という資産の増加」がセットになっているからです。

4.4 売掛帳への記帳の結果    

以上の取引を売掛帳に記帳すると、以下のようになります。

(野比さんの売掛帳)

日付 摘要 相手科目 売掛金額 入金額 残高金額
1/12 ドラ株式会社原稿納品  売上高 108,000   108,000
1/18 ドラ株式会社から原稿料入金  普通預金   97,790 10,210
1/18 所得税源泉徴収 事業主貸 10,210 0

これで、売掛帳も作れました。

最後に、経費帳を作りましょう。

5.経費帳を作る

経費帳にも色々なフォーマットがありますが、私は、以下のものを使っています。

(経費帳のフォーマットの例)

日付 摘要 種類 支払方法 支払金額 合計

5.1 経費帳の作り方    

費用(経費)には、消耗品費、接待交際費、交通費、新聞図書費などいくつかの種類があります。

また、費用の支払方法も、現金払い、クレジットカード払い、電子マネー払い(Suicaなど)、銀行振込、銀行口座からの引落しなど、いくつかの方法があります。

そこで、経費帳には、費用の勘定科目と支払方法の勘定科目を記録していきます。

支払方法の勘定科目は、少し分かりにくいかもしれませんが、費用の支払によって資産(現金、預金、売掛金)が減ったり、負債(未払金)が増えたりしますので、その減った資産(または増えた負債)の勘定科目を記録するだけです。

5.2 消費税の扱い    

売掛帳のところで述べましたが、消費税については、費用、売上などと分離して経理処理をする税抜経理方式と、分離せずに経理処理をする税込経理方式とがあります。

免税事業者の場合、税込経理方式で処理することになるので、経費帳にも、消費税込みの金額を記録します。

5.3 野比さんの取引を記帳する    

それでは、野比さんの取引を経費帳に記録していきましょう。

経費が絡む取引は以下の4つです。

③ 1/5

近所の本屋で執筆に必要な参考書籍を3,000円(税込み)で購入(事業用のクレジットカード払い)

④ 1/6

事業用に使うための中古のパソコンを2万円(税込み)で購入した(現金払い)。

⑥ 1/10

打ち合わせのため電車でドラ株式会社に行く。交通費は往復3,000円(Suicaで支払う)。

⑧ 1/14

ドラ株式会社主催のパーティに出席。会費は5,000円だった(現金払い)。

5.3.1 ③の取引を記帳する

③の取引は、事業用のクレジットカードを使って書籍を購入したというものです。

費用の種類としては、「新聞図書費」という勘定科目にあたります。

また、クレジットカードを使って支払ったので、現金や預金といった資産は減っていませんが、負債の勘定科目である「未払金」が増えました。

したがって、種類欄に記録するのは「新聞図書費」、支払方法欄に記録するのは「未払金」です。

5.3.2 ④の取引を記帳する

④の取引は、中古のパソコンを現金で買ったというものです。

パソコンという消耗品を買っているので(但し、10万円以上になると費用ではなく資産に計上しなければなりません)、費用の種類は、「消耗品費」です。

また、支払方法は、現金払いなので、「現金」です。

5.3.3 ⑥の取引を記帳する

⑥の取引は、交通費をSuicaで支払ったというものです。

費用の種類は、「旅費交通費」にあたります。

また、野比さんはSuicaをプライベート用と事業用を区別せずに使っており、Suicaにチャージされたお金を事業用として管理していないので、ここでは、プライベート用のお金を交通費に充てたと考えます。

そうすると、事業主野比さんが、プライベート野比さんからお金を借りて交通費を支払ったことになりますので、支払方法は、「事業主借」ということになります。

5.3.4 ⑧の取引を記帳する

⑧の取引は、取引先のパーティに出席し、現金で会費を支払ったというものです。

費用の種類は、「接待交際費」であり、支払方法は、「現金」です。

5.4 経費帳への記帳の結果    

以上、野比さんの平成30年1月の取引を経費帳に記帳すると、次のようになります。

(野比さんの経費帳)

日付 摘要 種類 支払方法 支払金額 合計
1/5 参考書籍購入 新聞図書費 未払金 3,000 3,000
1/6 パソコン購入 消耗品費 現金 20,000 23,000
1/10 ドラ株式会社打ち合わせ 旅費交通費 事業主借 3,000 26,000
1/14 ドラ株式会社パーティ出席 接待交際費 現金 5,000 31,000

以上で、野比さんの平成30年1月分の取引を、現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、経費帳に記帳することができました。

6.自分自身の取引を記帳する

野比さんの取引は、これで全部ですが、このブログを読んで下さっている方は、この調子で、ご自身の1月1日から12月31日までの取引を記帳していって下さい。

ここで記帳した結果を、仕訳帳、総勘定元帳、試算表、貸借対照表、損益計算書にリンクさせますので、日付や金額などを正確に記録して下さい。

また、もし、現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、経費帳のどれにも記録できない取引がありましたら、それだけは別途、特定取引仕訳帳に記録する必要がありますので、忘れずに覚えておいて下さい(例.インターネット使用料を事業用の口座から引き落とした場合に、家事分を経費から控除する経理処理)。

特定取引仕訳帳の説明は、仕訳帳の作成の説明と一緒にします。

それでは、今回はここまでにして、次回は、仕訳帳の作り方をご説明したいと思います。

《関連する国税庁ホームページ》

注1 事業者とは

注2 納税義務の免除

注3 税抜経理方式又は税込経理方式による経理処理

Follow me!