エクセルで青色申告をしよう(4) 複式簿記の考え方を身につける
前回は、フリーランスになったらやるべきことをご説明しました。
今回から青色申告に向けた帳簿作りを始めます。
簿記の勉強をしたことがない方も、コツをつかめればすいすいと帳簿をつけられるようになると思いますので、青色申告の特典を受けるために、頑張りましょう。
1.どんな帳簿を作る必要があるのか?
青色申告をするためには、少なくとも、主要簿である仕訳帳と総勘定元帳、そして、決算書類である貸借対照表と損益計算書を作らなければなりません(注1~注4)。
帳簿を作成する手順は、基本的には以下のとおりとなります(注5)。
仕訳帳とは、全ての取引を借方と貸方に仕訳するための帳簿であり、取引の発生順に取引の年月日、勘定科目、金額等を記載します(借方、貸方、勘定科目などの詳しい説明は後述します)。
(仕訳帳の例)
日付 | 摘要 | 借方科目 | 貸方科目 | 金額 |
4/1 | ボールペン購入 | 消耗品費 | 現金 | 1,000 |
5/1 | ○○の件原稿料入金 | 普通預金 | 売掛金 | 30,000 |
5/20 | 銀座すきやばし二郎 | 接待交際費 | 現金 | 80,000 |
6/4 | タブレット購入 | 消耗品費 | 未払金 | 30,000 |
また、総勘定元帳とは、全ての取引を勘定科目の種類別に分離して整理、計算する帳簿であり、勘定科目ごとに、取引の年月日、相手科目、金額等を記載します。
(総勘定元帳の例)
元帳(消耗品費)
日付 | 相手科目 | 摘要 | 借方金額 | 貸方金額 | 残高 |
4/1 | 現金 | ボールペン購入 | 1,000 | 1,000 | |
6/4 | 未払金 | タブレット購入 | 30,000 | 31,000 |
しかし、聞き慣れない仕訳帳の作成にいきなり取りかかるよりも、なじみのある現金出納帳や預金出納帳等を作ってから、仕訳帳を作る方がやりやすいと思いますので、このブログでは、以下のような手順で帳簿を作成していきたいと思います。
このブログで紹介する方法は、簡易帳簿(現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、経費帳)さえできれば、あとはエクセルを使って、ちょっとの数式の入力と、コピー&リンク貼り付けで、貸借対照表、損益計算書まで作ってしまおうという方法です(特定取引仕訳帳は、現金出納帳等ではカバーできない取引を捕捉するための帳簿ですが、基本的には必要ないと思います)。
この方法であれば、現金出納帳、預金出納帳等に入力した記録を、仕訳帳、総勘定元帳、試算表、貸借対照表、損益計算書と全てリンクさせることができるので、例えば、金額を誤って入力してしまい、修正が必要になった場合でも、現金出納帳、預金出納帳等の数字だけを修正すれば、他の全ての帳簿にも修正結果が反映されるという、非常に便利な作りになっています。
ただし、この方法は、商品の仕入がある方や従業員を雇っている方、そして消費税の納税義務がある事業者の方(年間売上が1,000万円以下だと消費税の納税義務が免除されています)には、そのままでは使えないので注意して下さい(仕組みを理解した上で応用すれば使えますが、素直に会計ソフトを使った方が楽だと思います)。
以上で、帳簿作成の流れが分かったと思います。
それでは、これらの帳簿を作るためには、複式簿記についての知識が必要になるので、最初にその説明をしておきたいと思います。
2.複式簿記をマスターする
2.1 複式簿記のイメージをつけよう
複式簿記は、取引の記録を帳簿に付ける技術ですが、一つの取引を二つの視点で把握(記録)するのが、大きな特徴です。
ここで、「取引」とは、簡単にいえば財産の増減を生じさせる事象のことで、例えば、火事や盗難にあって商品や備品がなくなった場合にも、取引として記帳します。反対に、契約交渉のために時間と労力を使っても、財産に増減が生じていなければ、取引として把握しません。
そして、一つの取引(財産の増減)を二つの視点で把握(記録)するという意味は、その取引によって、「資産」「負債」「資本」「費用」「収益」のうちの、どれが増えて(減って)、それと同時に、どれが減った(増えた)のかを考え、その二つの組み合わせで、一つの取引を把握(記録)するという意味です。
例えば、ボールペンを現金1,000円で買ったという取引については、現金という「資産」が1,000円減ると同時に、ボールペンを買ったことで「費用」が増えているとみるわけです(資産の減少と費用の増加の組み合わせ)。
また、預金口座から現金1万円を引き出したという取引については、現金という「資産」が1万円増えると同時に、普通預金という「資産」が1万円減ったとみるわけです(資産の増加と資産の減少の組み合わせ)。
その他にも、人から現金10万円を借りたという取引については、現金という「資産」が10万円増えると同時に、借入金という「負債」が10万円増えたとみるわけです(資産の増加と負債の増加の組み合わせ)。
このように、一つの取引(財産の増減)によって、「資産」「負債」「資本」「費用」「収益」のうちの、どれが増えて(減って)、それと同時に、どれが減った(増えた)のかを考えるのが、複式簿記で帳簿を付ける第一歩です。
それでは、何故、「資産」「負債」「資本」「費用」「収益」なのでしょうか。
その理由は、帳簿作りのゴールである貸借対照表と損益計算書を見れば分かります。
(貸借対照表の例)
資産 |
負債 |
資本 |
(損益計算書の例)
費用 | 収益 |
上記のように、貸借対照表は、「資産」「負債」「資本」から構成され、損益計算書は、「費用」「収益」から構成されています。
貸借対照表と損益計算書を作成する目的は、財政状態と経営成績を正確に認識するとともに外部(税務署)に報告することにあるのですが、そのためには、一つ一つの取引を、貸借対照表と損益計算書の構成要素である「資産」「負債」「資本」「費用」「収益」に分解して記録する必要があるというわけです。
2.2 勘定科目を覚えよう
複式簿記のポイントは、一つの取引が、「資産」「負債」「資本」「費用」「収益」のうちの、どれが増えて(減って)、同時に、どれが減った(増えた)のかを考えることだと説明しました。
しかし、実際に帳簿を付けるとき、例えば、現金出納帳に記帳するときには、現金の増減を記入しますが、「資産」という現金を含む上位の概念は、登場しません。
現金も「資産」ですし、預金も「資産」です。土地や建物も「資産」ですし、お金を貸した時の債権も「資産」です。
このように、「資産」と大くくりに言っても、その中には、色々な項目があるわけですが、これらの項目のことを「勘定科目」といいます。
これは、「資産」に限ったことではなく、「費用」にも、電車に乗った時の交通費、モノ(消耗品)を買った時の消耗品費、接待をした時の接待交際費などがあります。
交通費、消耗品費、接待交際費などが「勘定科目」にあたるわけです。
主な勘定科目を一覧にしたのが次の表です。
大分類 | 勘定科目 | 説明 |
資産 |
現金 | 事業用に使う現金(プライベート用の現金と区別する) |
普通預金 | 事業用に使う普通預金 | |
売掛金 | 売上発生後の未収入金 | |
事業主貸 | 事業用の資金をプライベートの出費に使った場合などに使う勘定科目 | |
負債 |
借入金 | 他人から借り入れた金額 |
未払金 | 仕入代金以外の未払金 | |
買掛金 | 仕入代金のうち未払いの金額 | |
事業主借 | プライベートのお金を事業資金に組み入れた場合などに使う勘定科目 | |
資本 | 資本金 | 株主が企業に出資した場合の金額 |
費用 |
通信費 | 電話料金、郵便料金、インターネット回線料金など |
消耗品費 | 事務用品などの購入費。原則10万円未満のものに限る。 | |
接待交際費 | 取引先を接待した時の飲食代など | |
旅費交通費 | 電車賃、バス代、タクシー代、宿泊費など | |
新聞図書費 | 新聞、書籍、雑誌などの購入費 | |
租税公課 | 個人事業税、印紙税など | |
支払手数料 | 振込手数料など | |
会議費 | 喫茶店で打ち合わせをしたときの飲食代など | |
雑費 | ほかの経費にあたらない経費 | |
水道光熱費 | 電気、ガス、水道代金など | |
収益 | 売上高 | 事業で売上が発生したときの勘定科目 |
パッと見て分かりづらいのが、事業主貸、事業主借、未払金だと思いますので、これらについて説明します。
まず、事業主貸と事業主借ですが、フリーランスの方の場合、事業を営む主体であると同時に、事業と関係のないプライベートな生活を営む主体でもあります。
そのため、事業資金と生活資金をごっちゃにして考えてしまいがちですが、確定申告の対象となるのは、事業資金だけですので、事業資金と生活資金は区別する必要があります。
しかし、事業資金が足りなくなったら、生活資金から補充する必要がありますし、逆もまたしかりで、生活資金が足りなくなったら、事業資金から補充する必要があります。
こうした、事業資金と生活資金の行き来を表すために、事業主貸と事業主借という勘定科目があるのです。
イメージとしては、Aさんという人間は一人でも、事業の主体である「事業主Aさん」と、プライベートな活動の主体である「プライベートAさん」という二人の人間がいて、「事業主Aさん」と「プライベートAさん」との間でお金の貸し借りをしている感じです。
事業資金から生活資金に移すときは事業主貸(事業主AさんがプライベートAさんにお金を貸しているイメージ)で、生活資金から事業資金に移すときは事業主借(事業主AさんがプライベートAさんからお金を借りているイメージ)です。
次に、未払金ですが、例えば、クレジットカードでモノを買った場合、すぐに、現金や預金が減るわけではなく、カード会社が立替払いをし、後日、1ヶ月分の利用代金をまとめてカード会社が引き落としています。
このモノを買ってから、引き落とされるまでの期間は、代金未払の状態にあることから、未払金という負債を負っていると考えるわけです。
2.3 借方と貸方を覚えよう
簿記の用語に「借方」(かりかた)と「貸方」(かしかた)というものがあります。
借方とは、貸借対照表、損益計算書の左側をいい、貸方とは、右側をいいます。
「かりかた」の「り」が左払いなので左側が借方、「かしかた」の「し」が右払いなので右側が貸方と覚えましょう。
(貸借対照表の例)
借方 | 貸方 |
資産 | 負債 |
資本 |
(損益計算書の例)
借方 | 貸方 |
費用 | 収益 |
貸借対照表と損益計算書を見ると、借方に「資産」「費用」が、貸方に「負債」「収益」があることが分かります(資本はひとまず無視して結構です)。
仕訳帳に記録していく際、簿記のルールでは、ある取引によって「資産」「費用」が増えたときは、仕訳帳の「借方」に、増えた「資産」「費用」の勘定科目を記録します。
反対に、「資産」「費用」が減ったときは、仕訳帳の「貸方」に、減った「資産」「費用」の勘定科目を記録します。
同様に、「負債」「収益」が増えたときは、仕訳帳の「貸方」に増えた「負債」「収益」の勘定科目を記録し、「負債」「収益」が減ったときは、「借方」に減った「負債」「収益」の勘定科目を記録します。
以上をまとめると、次のようになります。
そして、以上の簿記のルールに従って仕訳帳を作っていくことを「仕訳」(しわけ)といいます。
例えば、現金でボールペンを1,000円で購入したという取引を仕訳するときは、次のように考えていきます
(仕訳帳の例)
日付 | 摘要 | 借方科目 | 貸方科目 | 金額 |
4/1 | ボールペン購入 | ? | ? | 1,000 |
まず、複式簿記の視点から、現金1,000円でボールペン購入という取引を「資産(勘定科目で言えば現金)が1,000円減った」、「費用(勘定科目で言えば消耗品費)が1,000円増えた」というふうに二つの視点から把握します(資産の減少と費用の増加の組み合わせ)。
次に、借方科目と貸方科目ですが、消耗品費という費用が増えているので、借方には「消耗品費」と記録し、現金という資産が減っているので、貸方には「現金」と記録します。
以上を仕訳すると、以下のようになります。
(仕訳帳の例)
日付 | 摘要 | 借方科目 | 貸方科目 | 金額 |
4/1 | ボールペン購入 | 消耗品費 | 現金 | 1,000 |
上の仕訳帳は、これまで述べてきたルールに従って記入されているので、逆にいえば、この仕訳帳を見れば、「現金1,000円で事業に使うためのボールペンを買った」ことが分かるわけです。
もう一つ例を見てみましょう。
例えば、Aさんが、出版社から原稿料1万円を銀行振込で受け取ったとしましょう(Aさんの普通預金口座に入金された)。このときの仕訳はどうなるでしょうか?
(仕訳帳の例)
日付 | 摘要 | 借方科目 | 貸方科目 | 金額 |
5/1 | 原稿料入金 | ? | ? | 10,000 |
まず、Aさんの銀行口座に1万円が入金されたことで、普通預金口座の残高が1万円増えました。
普通預金という資産が増えましたので、借方には、増えた資産の勘定科目である「普通預金」と記録します。
次に、Aさんは、原稿料1万円という収益を得ましたので、貸方には、収益の勘定科目である「売上高」と記録します。
つまり、以下のように仕訳をするわけです。
(仕訳帳の例)
日付 | 摘要 | 借方科目 | 貸方科目 | 金額 |
5/1 | 原稿料入金 | 普通預金 | 売上高 | 10,000 |
この仕訳帳を見れば、Aさんが原稿料として1万円の収入を得たこと、そして、その収入が、Aさんの銀行口座に振り込まれたことが分かるのです。
以上が仕訳の基本であり、これが理解できればあとは応用が利くので、青色申告に必要な帳簿作りもできると思います。
3.終わりに
一通り複式簿記についてご説明しました。複式簿記の考え方を理解することはできましたか?
次回は、モデルケースを例に、現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、経費帳を作っていきたいと思います。
今回の記事を読んだけど(複式簿記は)よく分からん、という方もご安心ください。多分、読み進めていくうちに理解が深まると思いますので、ひとまず、「複式簿記は、一つの取引を二つの視点から記録する」という点だけ覚えていただき、次に進んでみてください。
《参考文献等》
注1 所得税法施行規則第57条1項
青色申告者は、青色申告書を提出することができる年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額が正確に計算できるように次の各号に掲げる資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引(以下この節において「取引」という。)を正規の簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りように記録し、その記録に基づき、貸借対照表及び損益計算書を作成しなければならない。
一 (略)
二 事業所得については、その事業所得を生ずべき事業に係る資産、負債及び資本
三 (略)
注2 所得税法施行規則第58条1項
青色申告者は、すべての取引を借方及び貸方に仕訳する帳簿(次条において「仕訳帳」という。)、すべての取引を勘定科目の種類別に分類して整理計算する帳簿(次条において「総勘定元帳」という。)その他必要な帳簿を備え、財務大臣の定める取引に関する事項を記載しなければならない。
注3 所得税法施行規則第59条
1 青色申告者は、仕訳帳には、取引の発生順に、取引の年月日、内容、勘定科目及び金額を記載しなければならない。
2 青色申告者は、総勘定元帳には、その勘定ごとに、記載の年月日、相手方の勘定科目及び金額を記載しなければならない。
注4 所得税法施行規則第61条1項
前条第一項に規定する青色申告者は、毎年十二月三十一日において、財務大臣の定める科目に従い、貸借対照表及び損益計算書を作成しなければならない。
注5 税務署「青色申告者のための貸借対照表作成の手引き」(令和元年10月)p.3
*国税庁のホームページからダウンロードできます。
注6 注5のp.5