海外企業と合弁会社を設立する際の外為法上の留意点

本記事では、日本企業が海外企業と日本国内に合弁会社を設立する場合の外為法上の留意点について整理しました。

注:外為法は2021年6月現在のものを前提としてます。2020年5月の改正外為法の内容は踏まえています。

注:日本企業とは日本国内に主たる事務所を有する会社(典型的には日本国内で設立され事業を営む会社)を指し、海外企業とはそれ以外の会社(典型的には外国の法律により設立され、日本国外で事業を営む会社)を指すものとします(外為法Q&A対内直接投資・特定取得編Q2参照)。なお、日本企業であっても外国投資家に50%以上議決権を保有されている場合は、外国投資家となることから(同Q2(3)参照)、本記事の日本企業とは外国投資家に50%以上議決権を保有されていない会社を指すものとします。

なお、外為法については、日本銀行のホームページに「外為法Q&A」が公表されています。本記事では外為法Q&A(対内直接投資・特定取得編)の令和2年12月改訂版を参照しています。ただ、その内容はかなり難解ですので、ここでの内容も参考にされると良いかと思います。

1.念頭に置く合弁会社設立のスキーム

合弁会社の設立のスキームは色々あると思いますが、ここでは、以下のスキームによる設立方法を念頭においています。

① 日本企業と海外企業間で合弁契約を締結する。

② 合弁会社(①の合弁契約のクロージングにより合弁会社となる株式会社)が存在しない場合は、日本企業が国内に合弁会社(株式会社、非公開会社)を新たに設立する。既に合弁会社となる株式会社が存在する場合は、当該株式会社を合弁会社化する。この時点では、日本企業が合弁会社の株式100%を保有し、合弁会社の役員(取締役、監査役)はすべて、日本企業側が指名した人員で構成されている。

③ ①の合弁契約のクロージングとして、日本企業が海外企業に合弁会社の株式の一部を譲渡し、海外企業から対価を受領する。併せて、合弁会社の役員として、海外企業側が指名した人員が就任する。これにより合弁会社の設立が完了。

2.外為法の規制概要

(1) 規制の趣旨・方式

外為法では、国内の経済安全保障の観点から国内と海外との取引(資金、物、サービスの移動)について、一定の規制がかけられています。

規制の方法としては、①「許可・承認」、②「届出」、③「事後報告」があります。①「許可・承認」が必要な取引については、「許可・承認」を得るまで取引を実行することができません。②「届出」が必要な取引については、事前に届出を行い、記載に不備がなければ受理され、取引可能日の公示又は通知を受けることで取引が可能となります。③「事後報告」については、取引実行後所定の期間内に報告書を提出することになります。

これらは所定の様式が用意されていますので(日銀のホームページに公表されています)、それを用いて提出することになります。提出の窓口は日銀です(日銀に提出後、関係省庁の審査を受けることになります)。

(2) 規制の対象者

外為法の規制の対象者は、規制の対象となる取引に応じて異なります。

以下に述べる「対内直接投資等」の事前届出又は事後報告を行う義務があるのは、外国投資家(ここでは合弁当事者である海外企業)です(外為法Q&A対内直接投資・特定取得編Q3)。この場合、外国投資家は、日本国内に居住する代理人を通じて報告書等を提出することになります。

また、下記3(3)の「支払又は支払の受領に関する報告書」については、受領者(ここでは合弁当事者である日本企業)が報告義務を負います。

3.合弁会社の設立に関する外為法の規制各論

(1) 合弁会社の株式譲渡に係る事前届出が必要な場合

ア 指定業種該当性

上記の通り、合弁契約のクロージングに当たり、合弁会社の株式を海外企業に譲渡することを念頭に置くと、株式譲渡の前に届出が必要ないか検討する必要があります。

すなわち、海外企業が日本国内の非上場会社の株式を取得する行為は、(取得比率に関わらず)対内直接投資等に該当するところ(外為法Q&A対内直接投資・特定取得編Q1(2)参照)、対内直接投資等は、原則として、事前届出又は事後報告の対象となります(同Q3参照)。そして、対内直接投資等は、以下の①~③のいずれかに該当する場合に、事前届出の対象となります(同Q4参照)。

①外国投資家の国籍又は所在国が日本及び掲載国以外のもの。

②投資先が営む事業に指定業種に属する事業が含まれるもの。

③イラン関係者により行われる一定の行為に該当するもの。

上記のうち、①については、北朝鮮やイラクといった国以外の多くの国が掲載国(外為法Q&A対内直接投資・特定取得編(参考資料)2.掲載国一覧参照)に含まれてますので、通常は、該当しないと考えられます。③についても通常のビジネスでは問題となることは考え難いです。

そのため、実務上問題となるのは②だと思います。合弁会社(合弁会社に子会社がある場合は、当該子会社を含む)が営む事業に指定業種に属する事業が含まれると、株式譲渡(合弁契約のクロージング)に当たり、事前届出(様式1)が必要となります。

「指定業種」とは、「『業種を定める告示』別表第一および別表第二に掲げる業種に該当する業種ならびに別表第三に掲げる業種(別表第一に掲げる業種を除く)に該当しない業種(別表第一および別表第二に掲げる業種を除く)」とされています(外為法Q&A対内直接投資・特定取得編「『外為法Q&A』の利用にあたって」の2.略語の使用参照)。別表第二と別表第三に業種が記載されていますが、業種の分類は「統計法第二十八条に基づき、産業に関する分類を定める件(平成25年10月総務省告示第405号)」の分類表に従ったものです(同Q21参照)。一見すると、別表第二と別表第三で重なる業種もあるように見えますが、「ただし、○○を除く」「ただし、○○に限る」というように、両者で重ならないように整理されています。

指定業種に該当するか否かは、定款上の事業目的だけではなく、実際に行っている事業活動により判断する必要があるとされています(同Q4注3参照)。合弁会社が新設の会社である場合、設立された直後の段階では、まだ事業を行っていないケースがほとんどのため、このような場合には、指定業種該当性は高くないと思われます。

ただし、外為法Q&Aでは、現在は指定業種を行っていない場合でも、出資から6か月以内に行う予定がある場合は、事前届出を必要としていることから(同Q61参照)、実際には、クロージング前に事前届出(様式1)を行うケースも多いと思われます。

また、クロージングの時点では指定業種を営んでいないと整理した場合において、後日、指定業種に該当する事業を開始する行為は(定款変更が行われない場合であっても)、「会社の事業目的の実質的な変更」(同Q1(4))として対内直接投資等に該当することになります。そして、新たに追加される事業に指定業種が含まれている場合は、事業を開始する前に、事前届出(様式3)が必要となります(同Q4の表の様式3に対応する「該当する取引」欄参照)。

なお、「会社の事業目的の実質的な変更」については、「当該会社が非上場会社であって、同意者の所有等株式等と当該同意者の密接関係者の所有等株式等との合計した株式の数もしくは出資の金額または純議決権数の当該会社の発行済株式の総数もしくは出資の金額または総議決権に占める割合のいずれもが3分の1未満であるもの」については、事前届出及び報告が不要とされています(同Q13(16)参照)。現に指定業種を営んでいる非上場企業の株式を外国投資家が取得する場合は、取得比率に関わらず事前届出が必要となるのに対し、外国投資家が株式取得後に指定業種を開始する場合は、総議決権の3分の1以上を保有していない限り事前届出不要というのは一貫性がないようにも思えますが、現在は、そのような規制になっています。

イ 届出期間

以上の検討により、事前届出が必要と判断した場合は、日銀に届出を行うことになります。事前届出が不要な場合として、事前届出免除制度(同Q5参照)もありますが、合弁当事者である海外企業は、事前届出免除制度における遵守基準(同Q8参照)を遵守できないことが通常であると思われ、事前届出免除制度は利用できないと思います。

事前届出を行う場合、行為の日の6か月前以内に届出書を提出する必要がありますが(同Q11)、原則として、日銀が届出書を受理した日から起算して30日を経過するまでは、届け出た取引又は行為を行うことができないため(同Q25参照)、クロージングのスケジュールは、これを踏まえて検討する必要があります(同Q25記載の通り禁止期間の短縮手続もあり、通常は、短縮手続の対象になると思いますが、念のために、余裕を持ったスケジュールを立てるのが良いと思います)。なお、日銀に届出書を提出しても、不備があると受理されない(訂正を求められる)ため、この点も注意が必要です。

ウ フローチャート

株式取得時の事前届出の要否については、こちらの財務省の資料(17頁)に分かりやすいフローチャートが載っていますので、こちらも参考にされるとよろしいかと思います。

(2) 株式譲渡後の報告が必要な場合

ア 株式譲渡に係る事前届出を行った場合

上記(1)の検討の結果、合弁会社が指定業種に該当するとして、事前届出(様式1)を行った場合は、行為時から30日以内に日銀に実行報告書(様式19)を提出する必要があります(外為法Q&A対内直接投資・特定取得編Q12参照)。

イ 株式譲渡に係る事前届出を行わなかった場合

他方で、上記(1)の検討の結果、合弁会社が指定業種に該当しないとして、事前届出(様式1)を行わなかった場合は、事後報告をする必要がないか検討することになります。

この場合、合弁当事者である海外企業が取得する株式の議決権比率が(密接関係者と合わせて)10%未満であるときは、事後報告不要となります(外為法Q&A対内直接投資・特定取得編Q13(4))。裏を返せば、10%以上であるときは、事後報告が必要です(同Q14参照)。この事後報告は、行為を行った日から45日以内(同Q14参照)に日銀に報告書(様式11)を提出して行います。

ちなみに、事前の届出が必要な指定業種に該当しない業種を、「事後報告業種」といいます(外為法Q&A対内直接投資・特定取得編「『外為法Q&A』の利用にあたって」の2.略語の使用参照)。

(3) 株式の対価の受領に係る報告が必要な場合

合弁契約のクロージング実行時に、海外企業から株式の対価を受け取る際、その金額が3000万円相当額を超える場合は、「支払又は支払の受領に関する報告書」を提出する必要があります。銀行振込により対価を受け取る場合は、銀行を通じて報告手続きを行うことになります。

(4) 役員の選任に係る届出が必要な場合

ア 指定業種該当性

2020年5月施行の改正外為法により、外国投資家が国内の会社の取締役もしくは監査役の選任に係る議案について同意することが対内直接投資等に含まれることになりました(外為法Q&A対内直接投資・特定取得編Q1(4)②)。

なお、外国投資家が投資先である会社の50%以上の議決権を保有する場合(取得時に届出をしている場合に限る)は、取締役・監査役の選任議案への同意であっても届出、報告は不要なため(同Q13(17)参照)、以下では、日本企業が合弁会社の議決権の過半数を取得するケースを想定することとします。

前述の通り、対内直接投資等は、原則として事前届出又は事後報告が必要なところ(同Q3)、合弁会社が上記(1)の①~③(以下に再掲)のいずれかに該当する場合は、事前届出の対象となります(同Q4)。

①外国投資家の国籍又は所在国が日本及び掲載国以外のもの。

②投資先が営む事業に指定業種に属する事業が含まれるもの。

③イラン関係者により行われる一定の行為に該当するもの。

ここでも上記(1)同様、合弁会社の指定業種該当性(②)が主な検討対象となります。そして、合弁会社が指定業種に該当する場合であって、「外国投資家自らまたはその関係者・・・が国内の会社の取締役または監査役に就任する議案について、外国投資家が同意する場合」(同Q4の表の様式3の2に対応する「該当する取引」欄参照)には、事前届出の対象となります。

イ 関係者該当性

上記の「外国投資家自らまたはその関係者・・・」における「関係者」とは、当該役員選任議案を、誰が提案するかによって異なり、外国投資家が提案する方が、それ以外の者が提案する場合に比べて対象者が広くなっています(同Q7参照)。合弁契約を締結している場合、合弁当事者それぞれが一定数の役員指名権を有していると考えられますので、海外企業が指名する場合は、「外国投資家自らまたは第三者(発行会社を含む。)を通じて提案する場合」(同Q7)(以下「外国投資家提案の場合」という。)に該当すると思われます(同Q47も参照)。そのため、例えば、海外企業が、自社の役員・従業者を合弁会社の役員(取締役又は監査役)に指名する場合は、事前届出が必要になります(同Q7外国投資家提案の場合(1)参照)。

また、日本企業が指名する場合、すなわち、「第三者(発行会社を含む。)が提案する場合」(同Q7)(以下「第三者提案の場合」という。)に該当する場合でも、注意が必要です。すなわち、上記「関係者」には、「本人と共同して議決権その他の権利を行使することを合意している個人または法人その他の団体の役員もしくは従業者」(同Q7第三者提案の場合(13))及び「本人と共同して議決権その他の権利を行使することを合意している個人または法人その他の団体を本人とした場合の上記(1)~(12)に該当する者」(同Q7第三者提案の場合(14))が含まれているところ、合弁当事者である日本企業は上記「本人と共同して議決権その他の権利を行使することを合意している・・・法人」に該当すると考えられることから、例えば、日本企業が、自社の役員・従業者を合弁会社の役員に指名する場合も事前届出の対象になります(事前届出の対象となるかは選任議案の候補者ごとに判断する必要があります。そして、様式3の2では、事前届出の対象となる候補者について一定の記載が必要になります)。

ウ 届出期間

上記の検討の結果、事前届出が必要な場合は、事前に日銀に届出書(様式3の2)を提出する必要があります。「事前に」とは、行為の日の6か月前以内を指しますが(同Q11参照)、禁止期間(同Q25参照)を考えると、(禁止期間の短縮手続もありますが)行為の日の30日前までには、届け出るのが良いと思います(同Q46も参照)。

なお、届出書(様式3の2)提出後の実行報告については、不要となります(同Q12、Q14参照)。

エ 事後報告業種に該当する場合

以上と異なり、合弁会社が指定業種に該当しない場合(事後報告業種である場合)には、事前届出も事後報告も不要です(同Q13(18))。役員選任議案の候補者が「外国投資家自らまたはその関係者」でない場合も、事前届出は不要ですが、そのようなケースは稀だと思います。

オ 指定業種でも事前届出を不要とする方法

上記の通り、合弁会社が指定業種に該当する場合、通常は、事前届出(様式3の2)が必要になると思いますが、これを避ける方法として以下が考えられます。

すなわち、クロージング実行後(つまり海外企業が株式を取得した後)に役員を選任しようとすると、上記の通り事前届出の対象となるため、クロージング実行前(つまり日本企業が100%株式を取得しているとき)に、海外企業が指名する役員候補者を、合弁会社の役員に選任する株主総会決議を行うのです。クロージングの実行を役員選任決議の停止条件とすることで、クロージングの実行後に役員選任決議をする必要がなくなるため、役員選任に係る事前届出を不要とすることができます。

但し、停止条件の付け方によっては、役員就任の登記申請が通らない可能性もあり得ると思いますので、事前によく検討する必要があると思います。

4.終わりに

以上、合弁会社設立時における外為法上の留意点を解説しました。外為法の事前届出の検討が抜け落ちていたため、合弁契約のクロージングスケジュールを変更しなければならない、という事態に陥らないよう、ご注意ください。

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