エクセルで青色申告をしよう(6) 仕訳帳を作る

前回までに、簡易帳簿である現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、経費帳を作成しました。

それでは、いよいよ、主要簿である仕訳帳を作っていきたいと思います。

なお、特定取引仕訳帳については、仕訳帳の一種ですので前回は説明しませんでしたが、今回の記事を読んでいただければ、どう作ればよいかが分かると思います(詳しい説明は次回します)。

今回も、前回同様、野比さんの例をもとに仕訳帳の作り方をご説明したいと思います。

なお、今回は、仕訳帳を一から作成する方法を先に説明しますが、現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、経費帳ができていれば、エクセルを使って、そこから簡単に仕訳帳に転記する方法があるので、今回の記事を読み飛ばしても、仕訳帳を作ることはできます。

それでも、仕訳帳の作り方を理解していた方が、次回以降の説明の理解もしやすいと思いますので、どうぞ今回の記事についてもお付き合い下さい。

1.野比さんの平成30年1月の取引記録

仕訳帳、総勘定元帳では、野比さんの取引を全て記録しますので、まずは、野比さんの平成30年1月の取引を再確認しましょう。

① 1/1

フリーとして仕事をスタート。手持ちの財布の現金は3万円だった。1か月の食費はこの範囲でやりくりするつもりである。

② 1/4

事業用に使うため、銀行でプライベート用の預金口座から現金5万円を引き出して財布に入れた。

③ 1/5

近所の本屋で執筆に必要な参考書籍を3,000円(税込み)で購入(事業用のクレジットカード払い)

④ 1/6

事業用に使うための中古のパソコンを2万円(税込み)で購入した(現金払い)。

⑤ 1/7

ドラ株式会社から執筆の依頼が来る。原稿料は10万円(消費税抜きの金額)とのこと。

⑥ 1/10 

打ち合わせのため電車でドラ株式会社に行く。交通費は往復3,000円(Suicaで支払う)。

⑦ 1/12

ドラ株式会社に原稿をメールに添付して納品する。同日、ドラ株式会社から納品確認のメールが来た。

⑧ 1/14

ドラ株式会社主催のパーティに出席。会費は5,000円だった(現金払い)。

⑨ 1/18

ドラ株式会社から1/12に納品した分の原稿料が事業用の預金口座に振り込まれる。

原稿料10万円に消費税8,000円を上乗せし、所得税の源泉徴収税額10,210円を控除した97,790円が振り込まれた。

⑩ 1/27

1/5にクレジットカードで買った参考書籍の費用3,000円が、事業用の銀行口座から引き落とされる。

⑪ 1/30

国民年金保険料(平成30年1月分)16,490円を銀行窓口で支払う(現金払い)。

⑫ 1/31

銀行ATMで、事業用の預金口座から、1/18に振り込まれたお金のうち5,000円を事業用に使うため引き出して財布に入れた。

2.仕訳帳の作り方

(仕訳帳の例)

日付 摘要 借方科目 貸方科目 金額
1/4 個人口座から事業資金へ組み入れ 現金 事業主借 50,000
1/5 参考書籍購入 新聞図書費 未払金 3,000
1/6 パソコン購入 消耗品費 現金 20,000
1/10 ドラ株式会社打ち合わせ 旅費交通費 事業主借 3,000
1/12 ドラ株式会社原稿納品 売掛金 売上高 108,000

仕訳帳を作るときのポイントは二つあります。

一つは、ある取引が、複式簿記の視点で見たときに、「資産」「負債」「資本」「費用」「収益」のうちの、どの組み合わせ(セット)で成り立っているかを判別することです。

例えば、現金で消耗品を買ったときの、「現金という資産の減少」と「消耗品費という費用の増加」の組み合わせや、ATMで預金を引き出したときの、「預金という資産の減少」と「現金という資産の増加」の組み合わせのことです。

この組み合わせが分かったら、その勘定科目の一方を借方科目に記録し、他方を貸方科目に記録するのですが、例えば、「現金という資産の減少」と「消耗品費という費用の増加」の組み合わせの場合、「現金」と「消耗品費」のどっちを借方科目に記録し、どっちを貸方科目に記録するのかを判別する必要があります。

これが、もう一つのポイントです。

どっちを借方科目に記録し、どっちを貸方科目に記録するかについては、ルールが決まっており、既に、エクセルで青色申告をしよう(4)で説明していますが、改めておさらいしましょう。

まずは、貸借対照表と損益計算書に記録された「資産」「負債」「費用」「収益」の位置を見てください。フリーランスの方で「資本」の仕訳が必要になる場面はないと思いますので、「資本」は無視していただいて結構です。

(貸借対照表の例)

 

 

資産

 

 

負債

 

資本

(損益計算書の例)

 

 

費用

 

 

 

 

収益

 

 

貸借対照表、損益計算書の左側が「借方」(かりかたの“り”が左払いなので、左側が借方と覚えましょう)、右側が「貸方」(かしかたの“し”が右払いなので、右側が貸方と覚えましょう)です。

そして、貸借対照表、損益計算書の左側に位置する「資産」と「費用」が増加したときは、「借方」にその勘定科目を記録し、これらが減少したときは、「貸方」にその勘定科目を記録します。

反対に、貸借対照表、損益計算書の右側に位置する「負債」「収益」が増加したときは、「貸方」に記録し、減少したときは、「借方」に記録します。

つまり、借方科目と貸方科目のルールは次のようになるわけです。

それでは、このルールに従って、野比さんの取引を仕訳帳に記帳していきましょう。

3.野比さんの取引を仕訳する

①は、事業用の財産の増減がなく、記帳の対象になりませんので、②から見ていきます。

3.1 ②の取引を記帳する    

②の取引は、1/4に、プライベート用の預金口座から事業資金として現金5万円を引き出したというものです。

ここでは、事業主野比さんがプライベート野比さんからお金を借りたと考えます。

つまり、「現金という資産の増加」と「事業主借という負債の増加」がセットになっていますので、仕訳帳に記録する勘定科目は、「現金」と「事業主借」です。

そして、資産の増加は借方に記録し、負債の増加は貸方に記録しますので、仕訳帳の「借方科目」欄に「現金」と記録し、「貸方科目」欄に「事業主借」と記録します。

日付 摘要 借方科目 貸方科目 金額
1/4 個人口座から事業資金へ組み入れ 現金 事業主借 50,000

3.2 ③の取引を記帳する    

③の取引は、1/5に、参考書籍を、事業用のクレジットカードを使い3,000円(税込み)で購入したというものです。

クレジットカードを使って事業に必要なモノを買ったときは、後日カード会社に代金を支払わなければなりませんので、買った時点では、代金未払の状態にあるとして、「未払金」という負債を負っていると考えます。

つまり、ここでは、「新聞図書費という費用の増加」と「未払金という負債の増加」がセットになっていますので、仕訳帳に記録する勘定科目は、「新聞図書費」と「未払金」です。

そして、費用の増加は借方に記録し、負債の増加は貸方に記録しますので、仕訳帳の「借方科目」欄に「新聞図書費」と記録し、「貸方科目」欄に「未払金」と記録します。

日付 摘要 借方科目 貸方科目 金額
1/5 参考書籍購入 新聞図書費 未払金 3,000

ちなみに、前回ご説明したとおり、消費税の納税が免除されている免税事業者は、消費税込みの金額で経理処理をします(税込経理方式)。

3.3 ④の取引を記帳する    

④の取引は、1/6に、事業用のパソコン2万円(税込み)を現金払いで購入したというものです。

ここでは、「消耗品費という費用の増加」と「現金という資産の減少」がセットになっています。

そして、費用の増加は借方に記録し、資産の減少は貸方に記録しますので、仕訳帳の「借方科目」欄に「消耗品費」と記録し、「貸方科目」欄に「現金」と記録します。

日付 摘要 借方科目 貸方科目 金額
1/6 パソコン購入 消耗品費 現金 20,000

3.4 ⑥の取引を記帳する    

⑥の取引は、1/10に、ドラ株式会社との打ち合わせのため、交通費3,000円を、プライベートでも使うSuicaで支払ったというものです。

Suicaの中身は、事業用の帳簿で管理していないプライベートなお金なので、事業主野比さんが、プライベート野比さんから借りたSuicaで支払ったと考えます。

つまり、ここでは、「旅費交通費という費用の増加」と「事業主借という負債の増加」がセットになっています。

そして、費用の増加は借方に、負債の増加は、方に記録しますので、仕訳帳の「借方科目」欄に「旅費交通費」と記録し、「貸方科目」欄に「事業主借」と記録します。

日付 摘要 借方科目 貸方科目 金額
1/10 ドラ株式会社打ち合わせ 旅費交通費 事業主借 3,000

3.5 ⑦の取引を記帳する    

⑦は、1/12に、ドラ株式会社に原稿を納品したというものです。原稿料は、事前に10万円(税抜き)と言われていました(⑤)。

売上は納品完了時(仕事の完成時)に計上しますが(発生主義)、報酬をまだ受け取っていませんので、売掛金として経理処理します。

つまり、ここでは、「収益(売上高)の発生」と「売掛金という資産の増加」がセットになっているわけです。

そして、収益の発生は貸方に記録し、資産の増加は借方に記録しますので、仕訳帳の「借方科目」欄に「売掛金」と記録し、「貸方科目」欄に「売上高」と記録します。

なお、計上する売上の金額は、免税事業者の場合、消費税額を含む108,000円です(税込経理方式)。

日付 摘要 借方科目 貸方科目 金額
1/12 ドラ株式会社原稿納品 売掛金 売上高 108,000

3.6 ⑧の取引を記帳する    

⑧の取引は、1/14に、ドラ株式会社主催のパーティに出席し、会費5,000円を現金で払ったというものです。

ここでは、「接待交際費という費用の増加」と「現金という資産の減少」がセットになっています。

そして、費用の増加は借方に記録し、資産の減少は貸方に記録しますので、仕訳帳には、「借方科目」欄に「接待交際費」と記録し、「貸方科目」欄に「現金」と記録します。

日付 摘要 借方科目 貸方科目 金額
1/14 ドラ株式会社パーティ出席 接待交際費 現金 5,000

3.7 ⑨の取引を記帳する    

⑨の取引は、1/18に、ドラ株式会社から1/12に納品した分の原稿料が事業用の預金口座に振り込まれたというものです。

振り込まれた金額は、原稿料10万円に消費税8,000円を上乗せし、所得税の源泉徴収税額10,210円を控除した97,790円です。

ここでは、二つの仕訳をします。

まず、実際に振り込まれた97,790円については、「普通預金という資産の増加」と「売掛金という資産の減少」がセットになっていますので、仕訳帳の「借方科目」欄に「普通預金」と記録し、「貸方科目」欄に「売掛金」と記録します。

次に、源泉徴収された所得税額10,210円については、事業主野比さんが、プライベート野比さんの代わりに所得税を支払った(源泉徴収された)関係にあるので、事業主貸として経理処理します。

つまり、ここでは、「売掛金という資産の減少」と「事業主貸という資産の増加」がセットになりますので、仕訳帳の「借方科目」欄に「事業主貸」と記録し、「貸方科目」欄に「売掛金」と記録します。

日付 摘要 借方科目 貸方科目 金額
1/18 ドラ株式会社から原稿料入金 普通預金 売掛金 97,790
1/18 所得税源泉徴収 事業主貸 売掛金 10,210

3.8 ⑩の取引を記帳する    

⑩の取引は、1/27に、クレジットカードの利用代金3,000円が事業用の預金口座から引き落とされたというものです。

ここでは、「普通預金という資産の減少」と「未払金という負債の減少」がセットになっていますので、仕訳帳の「借方科目」欄に「未払金」と記録し、「貸方科目」欄に「普通預金」と記録します。

日付 摘要 借方科目 貸方科目 金額
1/27 クレジットカード利用代金引落 未払金 普通預金 3,000

3.9 ⑪は記帳しない    

⑪は、1/30に、国民年金保険料(平成30年1月分)16,490円を現金で支払ったというものです。

国民年金保険料は、事業に必要な費用(経費)ではなく、プライベートの支出となりますので、生活資金から支払ったと考え、仕訳は行いません。

但し、国民年金保険料を事業用の預金口座からの振込で支払った場合など、事業用の資金に増減が生じている場合は、仕訳帳に記録する必要があります。

この場合の仕訳は次のようになります。

日付 摘要 借方科目 貸方科目 金額
1/30 国民年金保険料支払 事業主貸 普通預金 16,490

3.10 ⑫の取引を記帳する    

⑫の取引は、1/31に、事業用の預金口座から5,000円を事業用に使うため引き出したというものです。

ここでは、「普通預金という資産の減少」と「現金という資産の増加」がセットになっていますので、仕訳帳の「借方科目」欄には「現金」と記録し、「貸方科目」欄には「普通預金」と記録します。

日付 摘要 借方科目 貸方科目 金額
1/31 事業用口座から現金引き出し 現金 普通預金 5,000

なお、プライベート目的で使うために引き出した場合は、次のような仕訳になります。

日付 摘要 借方科目 貸方科目 金額
1/31 事業用口座から現金引き出し 事業主貸 普通預金 5,000

3.11 仕訳帳への記録の結果    

以上、野比さんの1か月間の取引を仕訳帳に記録した結果は、次のとおりです。

日付 摘要 借方科目 貸方科目 金額
1/4 個人口座から事業資金へ組み入れ 現金 事業主借 50,000
1/5 参考書籍購入 新聞図書費 未払金 3,000
1/6 パソコン購入 消耗品費 現金 20,000
1/10 ドラ株式会社打ち合わせ 旅費交通費 事業主借 3,000
1/12 ドラ株式会社原稿納品 売掛金 売上高 108,000
1/14 ドラ株式会社パーティ出席 接待交際費 現金 5,000
1/18 ドラ株式会社から原稿料入金 普通預金 売掛金 97,790
1/18 所得税源泉徴収 事業主貸 売掛金 10,210
1/27 クレジットカード利用代金引落 未払金 普通預金 3,000
1/31 事業用口座から現金引き出し 現金 普通預金 5,000

以上で、野比さんの取引を全て仕訳帳に記録することができました。

4.終わりに

今回は、仕訳帳の作り方をご説明しました。

次回は、前回作成した現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、経費帳からエクセルを使って仕訳帳に転記する方法をご説明したいと思います。

エクセルが苦手という方も、難しい関数は使わないので、是非、挑戦してみてください。

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